はじめに
「同人誌の転売禁止・オークション出品禁止と法律問題 その1」及び、「同人誌の転売禁止・オークション出品禁止と法律問題 その2」の続きになります。ここでは、転売者によって同人誌の表紙がヤフオクやメルカリなどのフリマサイトやオークションサイト(以下単に、「オークションサイト」とします)に掲載されていたことについて、著作権侵害とその後の法的手続を検討したいと思います。
表紙の掲載が著作権侵害にあたらないか
その1で述べた通り転売それ自体は著作権侵害ではありません。しかし、オークションサイトで転売するためには、通常同人誌の表紙を掲載します。これが無断転載、複製にあたるとして、著作権のうち複製権(著作権法第21条)、公衆送信権、送信可能化権(同法第23条第1項)侵害にあたるのではないか、という問題があります。
原則として、転売のためオークションサイトに表紙を掲載することは、著作権侵害にあたらないとされています(同法第47条の2)。もっとも、32,400画素を超えることは許されず(同法施行令第7条の3第1号、第2号イ、同法施行規則第4条の2第1項第2号、第2項第1号)、それ以上の画素数でアップロードされていた場合、著作権侵害にあたる可能性があります(※1)。なお、このページの弁護士の似顔絵が180×180=32,400ですので参考にしてください。
画素数以外にも「著作物の原作品若しくは複製物(ここでは同人誌それ自体をさします)の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要な最小限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致するものであると認められること。」という要件がありますが(同法施行規則第4条の2第2項第2号)、その1・その2で慣習について言及したようにに、同人誌の転売のために表紙を掲載することが「公正な慣行に合致するもの」にあたるかどうかは争う余地はありそうです。
※1 ここでいう画素数は、転売予定者がサーバーに画像をアップロードしたものなのか、購入予定者の端末に表示される画像の画素数なのかは解釈の余地があると思います。また、技術的保護手段を講じる場合は90,000画素が上限となります(同法施行令第7条の3第2号ロ、同法施行規則第4条の2第3項第1号)。
(参考)平成20年1月11日 文部科学省著作権分科会 法制問題小委員会(第10回)議事録・配付資料 資料3 第3節(3)ネットオークション等関係
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/08011801/003/007.htm
著作者人格権との関係
著作権法上、著作者の権利として著作権以外にも著作者人格権があります。著作権と著作者人格権の教科書的な違いについて、詳述は避けますが、その名の通り著作者のもつ人格的利益になります。
著作者人格権のうち、著作物を無断で改変等されない権利として、同一性保持権があります(同法第20条)。たとえば、表紙に「転載禁止」と明記されていたところ、出品者が出品の際、「転売禁止」を削除して掲載した場合、「意に反する」「改変」又は「切除」として、この同一性保持権が問題となります。なお、「18禁」の表記を削除して、全年齢として出品した場合も同様の問題が発生します。
そして、先ほど述べた同法第47条の2の制限は、著作者人格権に影響を及ぼさないため(同法第50条)、これらの改変や切除が認められれば、画素数等に関係なく、同一性保持権侵害にあたりえます。なお、詳述は避けますが、同法第20条第2項第4号にあたるケースもおそらくないでしょう。
著作権侵害にあたる場合
上記の解釈は、転売それ自体の著作権侵害ではなく、あくまで表紙掲載の著作権侵害です。つまり、転売者が画素数を下げて再出品すれば、著作権侵害にあたらない可能性がありますし、そもそも転売自体を止めることはできません。オークションサイトにしたところで、出品それ自体の取り消しではなく、画像の削除についてのみの対応となります(オークションサイトのシステムとして可能かどうかは別として)。もっとも、表紙画像のみの削除ないしは損害賠償請求といっても、転売に対する抑止的効果が事実上期待できるところはあり、その意味で法的手続を採ることはありえるでしょう。
その上でどうすればよいか
表紙の無断転載・無断アップロードをとらえて、著作権侵害を主張することそれ自体は十分ありうるところかと思います。同人誌の転売問題でお悩みの方、一度、ウィステリア・バンデル法律事務所にご相談ください。
(2021.01.15,2021.10.26 一部変更)
参照条文
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
(美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等)
第四十七条の二 美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。
(著作者人格権との関係)
第五十条 この款(管理者注:第四十七条の二を含みます)の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。
著作権法施行令(昭和四十五年政令第三百三十五号)
(美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等について講ずべき措置)
第七条の三 法第四十七条の二(法第八十六条第一項及び第三項並びに第百二条第一項において準用する場合を含む。)の政令で定める措置は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める措置とする。
一 法第四十七条の二(法第八十六条第一項及び第百二条第一項において準用する場合を含む。)に規定する複製 当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。
二 法第四十七条の二(法第八十六条第三項及び第百二条第一項において準用する場合を含む。)に規定する公衆送信 次のいずれかの措置
イ 当該公衆送信を受信して行われる著作物の表示の精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。
ロ 当該公衆送信を受信して行う著作物の複製(法第四十七条の四第一項の規定により行うことができるものを除く。)を電磁的方法(法第二条第一項第二十号に規定する電磁的方法をいう。)により防止する手段であつて、著作物の複製に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物とともに送信する方式によるものを用い、かつ、当該公衆送信を受信して行われる著作物の表示の精度が文部科学省令で定めるイに規定する基準より緩やかな基準に適合するものとなるようにすること。
著作権法施行規則(昭和四十五年文部省令第二十六号)
第四条の二 令第七条の三第一号の文部科学省令で定める基準は、次に掲げるもののいずれかとする。
一 図画として法第四十七条の二(法第八十六条第一項及び第百二条第一項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)に規定する複製を行う場合にあつては、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが五十平方センチメートル以下であること。
二 デジタル方式により法第四十七条の二に規定する複製を行う場合にあつては、当該複製により複製される著作物に係る影像を構成する画素数が三万二千四百以下であること。
三 前二号に掲げる基準のほか、法第四十七条の二に規定する複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が、同条に規定する譲渡若しくは貸与に係る著作物の原作品若しくは複製物の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要な最小限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致するものであると認められること。
2 令第七条の三第二号イの文部科学省令で定める基準は、次に掲げるもののいずれかとする。
一 デジタル方式により法第四十七条の二(法第八十六条第三項及び第百二条第一項において準用する場合を含む。以下この項及び次項において同じ。)に規定する公衆送信を行う場合にあつては、当該公衆送信により送信される著作物に係る影像を構成する画素数が三万二千四百以下であること。
二 前号に掲げる基準のほか、法第四十七条の二に規定する公衆送信を受信して行われる著作物の表示の精度が、同条に規定する譲渡若しくは貸与に係る著作物の原作品若しくは複製物の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要な最小限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致するものであると認められること。
3 令第七条の三第二号ロの文部科学省令で定める基準は、次に掲げるもののいずれかとする。
一 デジタル方式により法第四十七条の二に規定する公衆送信を行う場合にあつては、当該公衆送信により送信される著作物に係る影像を構成する画素数が九万以下であること。
二 前号に掲げる基準のほか、法第四十七条の二に規定する公衆送信を受信して行われる著作物の表示の精度が、同条に規定する譲渡若しくは貸与に係る著作物の原作品若しくは複製物の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要と認められる限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致すると認められるものであること。
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