同人誌の転売禁止・オークション出品禁止と法律問題 その1

はじめに

 同人誌の奥付などに「転売禁止」「オークション出品禁止」と書いてあるのをよくみかけます(以下、「転売禁止等」とします)。文字通り、その同人誌の転売やオークションの出品(以下、「転売等」とします)を禁止するものですが、実際転売等はしばしば行われています。そこで、この転売禁止等にどのような法的な意味があるのか問題になります。


同人誌転売禁止等の理由

 一つ目は二次創作の場合だとあくまで同人界隈のファンブックであり、同人世界と無関係の人が公式と勘違いしないように、さらには権利者に通報され、法的措置を採られないようにするためだといわれています。もっとも、同人誌即売会はだれでも参加できますし、それこそ商業出版社や権利者等も参加しているので、転売等をしなくても、権利者が同人誌の存在を知ることは、比較的容易といえます。また、最近では同人作家やサークル(以下、単に「同人作家」とします)が、ツイッターやpixivで作品のサンプルや表紙をアップロードして宣伝・告知します。そうすると、この理由であえて転売禁止等をする意義が薄れている感じはします。この理由は、SNSが未発達でまだ同人と一般が厳格に峻別されていた時代の名残ではないかと思います。 
 
 二つ目は、金銭的な問題です。同人誌の多くはお金を出して買うわけですが、別に同人作家が儲けるわけではなく、お金をもらうのは、投下資本(印刷費、参加費、配送費、交通費、宿泊費等)回収のためです(中にはがっつり稼いでいる同人作家もいるようですが)。転売等は、同人作家の投下資本回収の機会を奪うことになります。 
 
 三つ目は、営利目的転売行為等です。人気のある同人誌は、長蛇の列ができ、開始30分ほどで完売します。当然、買えなかった人もたくさんいます。俗にいわれる「転売屋」はここにも出現し、ひとりで複数冊買っていきます(ひとりで何十冊と買うような露骨なことはしないでしょうが)。もちろん、「おひとり様2冊まで」といった感じで、購入制限をかける同人作家も少なくありませんが、それでも転売屋は後を絶ちません。本来は正規値段で買えた買い手(読み手)の気持ちを踏みにじる行為であり、同人作家として到底容認できないところです。
 これ以外にもいろいろ理由はあると思いますが、最大公約数的なところとしては上記のとおりかと思います。


転売禁止等の法的問題

 同人誌の頒布は法律上売買契約にあたります(民法第555条)。売買契約である以上、同人誌の所有権は買った時点で売主から買主に移転するため、買主が同人誌の転売等しても、所有権の範囲内ですので原則自由となります。また、著作権(譲渡権)侵害になると思われるかもしれませんが(著作権法第26条の2第1項)、いわゆる消尽にあたりますので、著作権上も問題ありません(同条第2項第1号)。つまり、転売等は原則自由ということになります。
 
 他方で、「転売禁止等」が売買契約上の拘束力を有し、違反者に対して債務不履行責任に基づき損害賠償請求することは理論上ありえなくはないところです(民法第415条第1項)。つまり、「転売禁止等」が売買契約における買主の付随義務に属するという解釈です。判例等がないので、正直やってみないとわからないところはありますが、個人的には十分成り立つ議論かと思います。
  
 「転売禁止等」は同人界隈の独自のものとはいえ、常識化されたルールです。そうすると、「転売禁止等」が一種の慣習法として一定の法的拘束力を認める余地があります(民法第92条参照)。もっとも、同人と一般の垣根がだんだんなくなっていく中で、同人界隈特有のルールが慣習法として拘束力を認めるのは妥当か、という反論もありうるところです。いずれにしても、法的問題として弁護士に相談すべきかと思います。 
 ウィステリア・バンデル法律事務所では、同人誌の転売禁止等についても相談を承っていますので、ぜひご相談ください。なお、「同人誌の転売禁止・オークション出品禁止と法律問題 その2」を掲載しましたので、こちらも続けてご覧ください。また、表紙掲載との関係で、「同人誌の転売禁止・オークション出品禁止と法律問題 その3」も合わせてご覧ください。

(2021.02.18 修正)
(2019.04.28)


参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(任意規定と異なる慣習)
第九十二条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(譲渡権)
第二十六条の二 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
2 前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物
二 第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
三 第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
四 前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物
五 国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物

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