はじめに
ウィステリア・バンデル法律事務所では、オンラインカジノを含む、ギャンブル・カジノ・賭博問題も扱っています。しかし、近時、カジノ界隈を含む環境が大きく変化しており、特に捜査当局の動きも一段と厳しくなっています。他方で、オンラインという性質から、日本国内と日本国外にまたがる複雑な法律問題も残されています。本記事では、こうしたギャンブル・カジノに関する法律問題を解説したいと思います。
ギャンブルの違法性(前提)
日本国内でギャンブルを行うことは、競馬や競艇など公営ギャンブルを除き違法です。プレイヤー側については単純賭博罪(刑法第185条)、常習賭博罪(刑法第186条第1項)、運営側については賭博開帳図利罪(刑法第186条第2項)が成立します。また、共謀して行えば共同正犯(刑法第60条)、唆すと教唆罪(刑法第61条第1項)、手助けするとほう助罪(刑法第62条第1項)になります(これらは合わせて共犯といいます)。組織として行えば、より罪は重くなります(組織犯罪処罰法第3条第1項第5号、第6号)。さらに、海外のカジノ(海外ライセンスの有無を問いません)であっても、日本国内でプレイしたり、国内で配信・中継等をしたりすると、日本国内で上記の罪が成立することになります。なお、デモマネーの場合、金銭のやり取りがないので、少なくとも行為者自身に賭博罪は成立しないとする余地はありますが、それをもって国内でのオンラインカジノの賭博行為を誘発するのであれば、教唆罪ないしはほう助罪が成立する余地があります。
つまり、まとめると以下の通りになります。
1.海外のカジノサイトに日本国内で接続して、日本国内で運営又はプレイをすること(接続先サーバが国内にあるかどうかは問いません)。
2.海外のカジノサイトのプレイ動画を、日本国内で配信すること(海外サイトの紹介などを含みます。プレイ自体は国内外を問いません)。
3.海外のカジノサイトの賭け金授受の手段として、日本国内で決済代行会社を運営すること。
1について、警察・検察は違法であることを前提として捜査・立件しています。また、実際に有罪判決(略式命令を含みます)も出ています。2については、後述のギャンブル等依存症対策基本法の改正との関係でも説明いたしますが、日本国内でのプレイの教唆ないしはほう助にあたる可能性があります。3について、近時、決済代行会社の摘発事例も出ています。賭博の共犯のみならず、資金洗浄(マネーロンダリング)として処罰されることもあります(組織犯罪処罰法第10条第1項など)。
海外で運営・プレイをする場合
上記はいずれも、日本国内でプレイをした場合や、配信・宣伝・紹介など(以下、「配信等」とします)を行った場合です。他方で、海外でプレイをすることそれ自体は、特に違法性はありません。日本の刑法で海外の行為を処罰することは原則できないからです。これを属地主義の原則といいます(刑法第1条第1項)。
それでは、海外から配信等をしたらどうなるのでしょうか?さきほど、海外のカジノサイトやカジノのプレイを「日本国内で」配信等した場合に違法になる述べましたが、「海外にいながら」配信等をすることが違法か問題となります。
先ほど述べたように、日本国内で賭博行為をすると賭博罪が成立します。海外カジノサイトの配信等は賭博罪の共犯に問われることがあります。しかし、海外から発信等をする行為について、現時点で有罪判決の事例が見当たらないので、正直なところなんともいえないところがあります。仮に違法だとする立場を採った場合であっても、宣伝者や配信者が海外にいる以上、日本の警察がどうやって逮捕するのかという問題はあります。
なお、「海外でのプレイを目的として」日本国内で海外のカジノサイトを配信等をするサイトが最近散見されますが、現在のところ摘発事例は見当たりません。しかし、「形式ではなく実態が」日本国内での賭博行為の誘導とされる場合、賭博罪の教唆・ほう助として摘発される可能性があります。
ギャンブル等依存症対策基本法の改正を受けて
ギャンブル等依存症対策基本法が改正され、令和7年9月25日施行されました。この法改正により、違法オンラインギャンブル等ウェブサイトを提示する行為等が禁止されることになりました(同法第9条の2)。しかし、もともとこの法律は、ギャンブル依存症対策に関する法律で、ギャンブル行為を処罰する法律ではなく、この改正法によってもかわることはありません。そのため、配信等の行為について処罰されないのではないか、と思われた方もいるかと思います。
しかし、ギャンブル等依存症対策基本法自体に罰則規定がないからといって、賭博行為を唆し、手助けしたことにかわりはないので、やはり賭博罪の教唆・ほう助といった共犯に問われることがあります。また、犯罪かどうかは別としても、少なくとも、配信等が違法である以上、配信等について、プロバイダによるアクセス遮断、SNSのアカウント停止といった措置が講じられる可能性があり、事実上配信等が不可能になることもあります。
さらに、配信等によって収益が発生した場合、その未払い部分について、現実に金銭の支払いが拒否される可能性があります。詳細は避けますが、公序良俗違反(民法第90条)や不法原因給付(民法第708条)として、契約上の請求ができなくなります。
銀行口座についても凍結となる可能性があります。金融機関より、オンラインカジノに関与した口座について凍結措置を採るとのアナウンスもあります。企業等の案件や、アフィリエイト等で収益をあげている配信者などについて、事実上経済活動が不可能になることが想定されます。
ウィステリア・バンデル法律事務所の考え方
ウィステリア・バンデル法律事務所では、国内外問わずカジノ・ギャンブルを推進・助長することはありませんし、まして相談者様の違法行為等に手を貸すことは決してありません。とはいえ、現実として(ライセンスのある)海外オンラインカジノがあることは事実ですし、インターネットに接続できる以上、世界中でプレイできることは事実です。また、リアルギャンブルであっても、海外の合法の地域でプレイする限りで違法性はありません。
ウィステリア・バンデル法律事務所では、目まぐるしく動く、カジノ・ギャンブルの世界と法律理論的な課題に取り組み、ご相談者様・ご依頼者様によりよい法律サービスを提供できるよう、日々努めてまいります。
参照条文
刑法(明治四十年法律第四十五号)
(国内犯) 第一条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。
(共同正犯) 第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
(教唆) 第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
(ほう助) 第六十二条 正犯をほう助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
(従犯減軽) 第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
(賭博) 第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の拘禁刑に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号))
(定義) 第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。
2 この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産
イ 死刑又は無期若しくは長期四年以上の拘禁刑が定められている罪(ロに掲げる罪及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号。以下「麻薬特例法」という。)第二条第二項各号に掲げる罪を除く。)
ロ 別表第一(第三号を除く。)又は別表第二に掲げる罪
・・・(第2号 略)・・・
4 この法律において「犯罪収益等」とは、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産をいう。
・・・(第3項、第5項以下 略・・・)
(組織的な殺人等) 第三条 次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。
五 刑法第百八十六条第一項(常習賭博)の罪 五年以下の懲役
六 刑法第百八十六条第二項(賭博場開張等図利)の罪 三月以上七年以下の懲役
・・・(第2項及び、他の各号 略)・・・
(犯罪収益等隠匿) 第十条 犯罪収益等(公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律第三条第一項若しくは第二項前段、第四条第一項又は第五条第一項の罪の未遂罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。以下この項において同じ。)により提供しようとした財産を除く。以下この項及び次条において同じ。)の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、十年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。犯罪収益(同法第三条第一項若しくは第二項前段、第四条第一項又は第五条第一項の罪の未遂罪の犯罪行為により提供しようとした財産を除く。)の発生の原因につき事実を仮装した者も、同様とする。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁罰又は五十万円以下の罰金に処する。
(犯罪収益等収受) 第十一条 情を知って、犯罪収益等を収受した者は、七年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者又は契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。
別表第二(第二条関係)
一 刑法第百六十三条の四(支払用カード電磁的記録不正作出準備)の罪、同法第百六十三条の五(未遂罪)の罪(同法第百六十三条の四第一項の罪に係る部分に限る。)又は同法第百七十五条(わいせつ物頒布等)若しくは第百八十六条第一項(常習賭博)の罪
・・・(第2号以下 略)・・・
ギャンブル等依存症対策基本法(平成三十年法律第七十四号)
(違法オンラインギャンブル等ウェブサイトを提示する行為等の禁止) 第九条の二 インターネットを利用して不特定の者に対し情報の発信を行う者(ウェブサイトにおいて、単に発信された情報の不特定の者への提示の機会を提供しているに過ぎない者を除く。)は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等ウェブサイト又は違法オンラインギャンブル等プログラムを提示する行為
二 インターネットを利用して国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等に誘導する情報を発信する行為
2 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 違法オンラインギャンブル等 ギャンブル等のうち、国内においてインターネットを利用して違法に行われるもの
二 違法オンラインギャンブル等ウェブサイト ウェブサイトのうち、当該ウェブサイトにおいて違法オンラインギャンブル等を行う場を提供するもの
三 違法オンラインギャンブル等プログラム プログラムのうち、当該プログラムの利用に際し違法オンラインギャンブル等を行う場を提供するもの
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(公序良俗) 第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
(不法原因給付) 第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
2024.11.19 作成
2025.09.26 更新