はじめに
前回「イベント会場での犯罪1」に引き続き、コミックマーケット(コミケ)や、SUPER COMIC CITY(スパコミ)をはじめ、イベント会場で発生しうる犯罪について言及したいと思います。前回は、窃盗でしたが、今回は痴漢、盗撮について言及したいと思います。
イベントでの痴漢・盗撮行為
イベント会場での痴漢・盗撮もありますが、会場に向かう電車内の痴漢・盗撮も散見されます。特に、コミケやスパコミなどの大型イベントでは、超満員電車になりますので、痴漢・盗撮被害も後を絶たないといわれています。
痴漢や盗撮は各都道府県の迷惑防止条例違反になります(痴漢は刑法上の強制わいせつ罪にあたることもあります)。条例の適用は会場によって異なります。下記の参照条文では、コミケなど東京ビッグサイトのある東京都と、コミックシティなどインテックス大阪のある大阪府の条例を掲載しました。なお、イベント会場も条例でいう「公共の場所」にあたるでしょう。また、痴漢の中でも悪質なものは強制わいせつ罪になります。
程度にもよりますが、場合によっては警察に逮捕、勾留されることもあり、起訴まで最大で23日身体拘束されることになります。その後起訴されれば、さらに身体拘束期間は延長します(保釈が認められることもあります)。身体拘束の有無を問わず、略式手続を含む裁判を経て有罪となれば、罰金や懲役といった刑罰を受けることになりますし、法令により各種資格制限、懲戒免職、資格はく奪となることがあります。
痴漢・盗撮予防について
一般論として痴漢予防といえば、女性専用車両など乗車車両を工夫する、過度な露出のある格好をしない、行動パターンを変えるなどあれこれいわれています。しかし、イベント会場やそこに行くまでの電車は、ものすごい人であり、さらに会場内ではコスプレもするので、上記の一般的な予防手段は直ちにあてはまりません。
だからといって、無警戒になるのではなく、こうした痴漢・盗撮犯人が出没しうることを意識して参加するだけでも、かなり違ってきます。その上で、以下の方法を採るとよいでしょう。
〇 防犯ブザーを常備する。
〇 複数人で行動する。女性の場合、できれば男性と一緒に(男女カップルと思われる参加者やコスプレイヤーさんも見かけますね)。
〇 会場スタッフが常に視界に入る(声が届く範囲にいる)ようにしておく。
なお、コスプレで露出するのは仕方ありませんが、その場合性的な目で見る人もいるという意識はもつようにしてください。また、コスプレに際しては、「撮影の際は、一言声をかけてください」と、掲示する方法もあります。
痴漢・盗撮被害に遭ったら
実際に被害者が声を上げて、加害者(被疑者)を現行犯逮捕することができます(刑事訴訟法第213条)。現行犯逮捕というと大げさですが、平たくいうと「この人痴漢です」などと言って、犯人と思われる人を捕まえることをいいます。もっとも、イベント会場や電車内は相当混雑していることから、現行犯逮捕といっても困難な場合も多いですし、何より被害者が声を上げることそれ自体相当勇気のいる行為です。実際に検挙事例もありますが、それ以上に多くの被害が黙殺されてきたのだろうと推察します。
現行犯でない場合、犯人を捕まえることは困難です。特に、コミケやスパコミのような大型イベントだと、なお困難になるでしょう。しかし、それでも警察に被害届を提出してください。犯人は別のイベントで同様の痴漢・盗撮行為をしている可能性があります。手口が類似していれば、各イベントも警戒するでしょうし、そうなるとそのうち犯人が捕まる可能性も高くなります。イベントだけではありませんが、逮捕されて被疑者を取り調べたら余罪がたくさん出てくることがあり、そこで過去の痴漢・盗撮被害について警察から連絡があったという例もあります。そのため、被害届を出していたら警察からの連絡がスムーズになることがあります。
また、イベント主催者にも連絡するようにしてください。そうした被害申告が増えれば、イベント主催者も警備強化するでしょう。警備強化によって、次回から安心して参加することができます。
(2019.10.22、2020.02.24一部加筆・修正)
参照条文
東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三七年一〇月一一日条例第一〇三号)
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。・・・(第2項以下 略)・・・
一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
(罰則)
第8条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
・・・(第1号 略)・・・
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者
・・・(第2号 略)・・・
大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三十七年十二月二十四日大阪府条例第四十四号)
(卑わいな行為の禁止)
第6条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
二 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物における衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影すること。
三 みだりに、写真機等を使用して透かして見る方法により、公共の場所又は公共の乗物における衣服等で覆われている人の身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
四 前三号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること。
2 何人も、みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態を撮影してはならない。
3 何人も、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、教室、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が出入りし、又は利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)における衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影してはならない。
4 何人も、第一項第二号若しくは第三号又は前二項の規定による撮影の目的で、人に写真機等を向け、又は設置してはならない。
(罰則)
第15条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六条第一項第二号若しくは第三号、第二項又は第三項の規定に違反して撮影した者
・・・(第2号 略)・・・
2 常習として前項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第17条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
・・・(第1号 略)・・・
二 第六条の規定に違反した者(第十五条の規定に該当する者を除く。)
2 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
刑法(明治40年法律第45号)
(強制わいせつ)
第176条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)
第212条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。