どのような誹謗中傷が違法になるのか

はじめに 

 同人作家や商業作家などクリエイターで、誹謗中傷・炎上についてウィステリア・バンデル法律事務所に相談される方が、多くいらっしゃいます。いずれの相談者様も、筆舌を尽くしがたい苦痛を受けており、中には精神疾患等で通院されている方や、誹謗中傷に耐え切れず、筆を折ってしまったクリエイターの方も少なくありません。このように、誹謗中傷は非常に由々しき法律問題であり、警察や裁判所の取扱件数も増えているといわれています。
 そこで、どのような誹謗中傷が違法になるのか、説明したいと思います。なお、投稿者の特定(発信者情報開示請求)については、本コラムでは割愛させていただきます。詳しくは、当サイト「ネット誹謗中傷・炎上」をご覧ください。

「名誉」とは

 誹謗中傷は「名誉毀損」と総称されることがあります。名誉毀損は法律用語ですが、ここでいう「名誉」とは一体何を意味するのでしょうか。
 「名誉」とは大きく次の3つの考え方があります。
1.内部的名誉
2.外部的名誉
3.名誉感情
 まず、1の内部的名誉とは、客観的に存在する人の内部的価値であり、真価とも呼ばれます。人の内部価値が、他人の評価によって低下することはありえないので、内部的名誉はここでいう「名誉」にあたりません。
 2の外部的名誉ですが、人の社会的評価をいいます。名誉毀損の「名誉」とはこの外部的名誉をさし、外部的名誉を「毀損」すなわち低下させる言動が「名誉毀損」になるわけです。言い換えると、人の社会的評価を低下させない言動であれば名誉毀損にはならないわけです。たとえば、「(同人作家の)Aさんは(同人作家の)Bさんの作品を盗作した」は、盗作をするということは、同人作家として信用を失わせ、評価を下げる内容ですので、人の社会的評価の低下にあたるわけです。なお、「盗作」や「パクリ」のレッテルをはられたという相談は、ウィステリア・バンデル法律事務所では結構多いです。
 3の名誉感情は、自分自身の主観的感情をさします。たとえば、「カス」「クズ」などがあたります。名誉感情侵害を侮辱ということもあります(ただし、刑法の侮辱罪とは異なります)。もっとも、軽度なものまで名誉感情侵害とすると、投稿等に萎縮が生じるので、社会通念上許容される限度を超えた場合にのみあたるとされています。
 名誉毀損と名誉感情侵害は、要件が異なるので、両者は区別して論じることになります。なお、プライバシー侵害や肖像権侵害等の問題もありますが、本コラムでは割愛させていただきます。

同定可能性

 そもそも論として、誹謗中傷が被害者に向けられたものなのか問題となります。つまり、SNSなど誹謗中傷では、特定人を名指しするケースばかりではないということです。また、実名ではなくアカウント名やハンドルネームを用いて活動する被害者も多いことから、そのアカウント名等が被害者に向けられているのかも問題となります。これを同定可能性の問題といいます。
 つまり、「投稿者→アカウント名→被害者」と、客観的にいえなければ、いくらひどいことを書かれても違法ではない、ということになります。
 この同定可能性は、想像以上にハードルが高く、発信者情報開示請求を含む実際の裁判で、同定可能性が認められないケースも少なくありません。なお、名誉感情侵害の場合、厳密には要件ではなく、侵害の要素とされていますが、それでも軽視できない要素といえます。

公然性

 公然性とは、不特定又は多数の者をさします。「又は」ですので、少数であっても不特定であればよいですし、特定であっても多数であれば公然性の要件をみたします。SNSであれば、原則として公然性は認められます。なお、SNSの鍵アカウント(鍵垢)でも公然性をみたすことがあります。
 他方で、DMや小規模のLINEグループなど、「不特定又は多数」といえない場合があります。もっとも、特定かつ少数人であっても、不特定又は多数人に伝達される可能性があるのであれば、公然性をみたすものとされています。たとえば、DM等のスクリーンショットがSNSで拡散される可能性があれば、公然性をみたすことがあります。
 なお、刑事で名誉毀損ないしは侮辱罪はいずれも公然性が要件となりますが、民事訴訟で名誉感情侵害を追及する場合、公然性は要件ではなく、侵害の要素となります。

名誉毀損の違法性阻却事由

 名誉毀損において、たとえ人の社会的評価を低下させる内容の投稿があったとしても、以下の要件を満たす場合には、名誉毀損にはあたらない(違法ではない)とされています。
(1)公共の利害に関する事実にかかること(公共性)
(2)専ら公益を図る目的であること(公益目的)
(3)摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)
 まず、(1)の公共性は、政治的意見など厳格なものに限らず、たとえばとあるジャンルや界隈内部の問題であっても、公共性が認められることがあります。(2)の公益目的は、ややわかりづらいですが、言い換えると、被害者を貶めることや侮辱することそれ自体を目的としているような場合を除くといったイメージでよいかと思います。実際、同人作家の誹謗中傷で公益目的を争うケースも少なくありません。
 結構問題となるのが(3)の真実性です。正確には、真実性の証明ですが、(2)の公益目的と同様、争われるケースが多々あります。

事実適示型と意見論評型

 前提として名誉毀損は、事実の指摘であるとされていますが、その事実が証拠によって評価されるものではないものを意見論評型といいます。たとえば、さきほどの「(同人作家の)Aさんは(同人作家の)Bさんの作品を盗作した」という内容が、トレースのようなまったく同一であれば、盗作元(パクられ)と盗作先(パクリ)があれば容易に認定できるので、事実適示型といえそうですが、構図の一部やアイデアなどに過ぎない場合は、「盗作(必ずしも著作権侵害をさすわけではありません)」かどうかは、証拠に照らして判断するわけではなく、見た人の判断、評価になるわけです。
 こうした意見論評型の場合、AさんBさん両者の作品それ自体は証拠として提出されていることが前提として、「人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものでないこと」という要件が必要になります。盗作したと投稿者が評価したのであれば、単に「盗作した」と書けばよいところを、それを超えて「盗作する奴はカス、クズ」などと書いてしまうと、場合によっては「人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱した」として、違法な名誉毀損となることがあります。

おわりに

 同人作家、クリエイターの皆様が抱える法律問題の中で、比較的多い誹謗中傷について、簡単にご説明いたしました。ウィステリア・バンデル法律事務所では、同人作家、クリエイターの誹謗中傷問題についても、取り扱っていますので、お悩みの方はぜひご相談ください。
(2024.06.18)

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

刑法(明治四十年法律第四十五号)
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。


一覧に戻る