同人誌と相続

はじめに 

 同人作家の方も、買う専門の方も、本棚、ダンボールなどにたくさんの同人誌を保管・保存していると思います(在庫を含む)。隠している方もいるでしょう。しかし、ひっそりと同人活動をしている人も少なくなく、そうした同人誌所有者が死亡した場合、「同人誌見られたくない」「こっそりし処分してほしい」といった要望があるという話も聞いています。そこで、同人誌所有者が死亡した場合、その同人誌はどうなるのか検討したいと思います。

相続の一般論

 同人誌も遺産ですので相続の問題となります。遺言書がなければ、同人誌は法定相続人のものとなります。その法定相続ですが、まず、配偶者(婚姻届を提出した夫や妻のことをいい、内縁は含みません)は常に相続人となります。次に、以下の順に相続が発生します。配偶者の相続割合を除いた部分(それぞれ右の割合)が、相続分となります。

1.子(養子含む。子が先に死亡していれば孫) 1/2
2.親(養親含む。親が先に死亡していれば祖父母) 1/3
3.兄弟姉妹 1/4

 つまり、上記の順と割合にしたがって、同人誌は相続されることになります。さらに、同人誌に限らず、通販等で同人誌を販売した場合、引渡しが未了であればその引渡し義務も相続の対象となります。つまり、自家通販であれば同人作家の夫や妻、親が同人誌の梱包・配送作業をしなければならないことになります。その代金や代金債権も相続財産となります。
 
 その後、同人誌やそれに関係する各種収入や費用を含めて、遺産分割をすることになります。

相続されないものもある

 一般的に一身専属とよばれるものは相続の対象となりません。たとえば、サークル参加者としての地位は一身専属になることがあります。サークル参加申込後、イベント開催前に申込者が死亡したとしても、相続人がサークル参加権(サークルチケット)を承継することはできない可能性が高いです(おそらく個々のイベント規約による)。pixivアカウント等も承継されません。
 他方で、搬入された新刊や印刷所との契約関係については承継されるので、相続人がきちんと代金を支払い、新刊を受け取らなければならないことになります。委託販売につきましては、個々の契約によると思いますが、売買契約の委任と考えれば本人死亡で委任関係は終了するか、個々の契約で終了と言うことになるかと思います。
 いずれにしても、ケースバイケースになるかと思いますので、相続人が印刷所やイベント主催者、委託販売先等と協議するようにしてください。なお、同人誌の転売禁止があった場合でも、相続による承継まで否定することは難しいと思います。

死亡後、同人誌を処分したい(見られたくない)

 同人誌の趣味は一身専属です。死亡後、持っている同人誌を処分したい、親に見られたくない、という方も少なくないでしょう。そこで、死亡後親に見られないように、こっそり処分するにはどうすればどうすればよいか考えてみたいと思います。

 まず、遺言書を作ることが大切です。遺言書は法律できちんと要件が定められていますので、弁護士その他法律の専門家にご相談ください。親が法定相続人である場合はもちろんのこと、そうでない場合も遺言書できちんと死後の処分方法について記載することが必要です。なお、親の場合3分の1の遺留分がありますので、ほとんどの財産が同人誌(その他、親に見られたくないものすべて)の場合、遺留分について注意するようにしましょう(なお、法改正により金銭請求が認められています)。
 それでも、同居していれば特に、別居していても、親であれば事実上遺品処分として同人誌は目に触れるでしょうし、遺言書を書いていたところで、それが発見されない可能性もあります。そうなると、死期が近づいたと感じたときに、同人誌を生前に処分・廃棄してしまうしかないような気がします。なお、同人誌を捨てる場合は、きちんとゴミ捨てのルールに従ってください。

おわりに

 同人活動をされている方は、おそらく「相続」といってもピンと来ないかもしれません。しかし、同人誌は貴重な財産ですので、これを機会に相続について考えてみてはいかがでしょうか。
(2020.03.01)

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(委任の終了事由)
第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
(委任の終了後の処分)
第六百五十四条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第八百九十九条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(代襲相続人の相続分)
第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額


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