同人誌と印刷所

 同人誌と法律問題といって想定されるのは、著作権やわいせつ関係といったところでしょうか。もちろん、これらも重要な問題ですが、それ以外にもいろいろと法律問題があります。そこで、定期的に同人誌と法律問題について、いろいろと書いてみようかと思います。そして、記念すべき(?)第1回目として、「同人誌と印刷所」について書いてみようかと思います。

 コピー本を除き、同人誌を作る際はどこかの印刷所を利用します。おおむね、10社くらい有名どころが想定されます。かつては、紙媒体・CDなどを印刷所に郵送ないしは持参して入稿していたこともあったようですが、現在は多くの印刷所でPhotoshop(※1)やCLIP STUDIO(※2)などのソフトと連携してオンライン入稿できるようになっていますので、昔に比べてかなり入稿が楽になったとは言われています(もちろん、旧来の手渡しや郵送等による方法も採られています)。また、DTP(DeskTop Publishing)とオンデマンド印刷の発達により、昔に比べ少部数の印刷単価がかなり下がっています。

 入稿後、イベント合わせなどの場合は直接イベント会場に搬入されます。印刷所もイベント日に応じた入稿締切日を設定しています。印刷所によっては、早期入稿の場合割引ないしはポイント還元をしてくれるところも多く、また、入稿後に修正の必要が生じた場合、比較的柔軟な対応がしやすくなっています(印刷所にもよります)。そのため、できるだけ早期入稿を心がけたいものです。とはいっても、なかなか早期入稿できないサークルさんも多く、イベント開催前日入稿といったこともしばしば行われています。もちろん、かなり割増しになりますし、入稿後の修正の余地は皆無です。コミケやコミックシティなど大型イベントの直前は、こうしたギリギリ入稿によって印刷所は忙殺されると聞きます。

 前置きはこのくらいにして、入稿時期を問わず、同人作家さんの思っていたものと実際の同人誌と違っていた、ということがあります。事前に完成稿をチェックして修正依頼をかけるといったことができればよいのですが、イベント合わせなどで印刷所が直接イベント会場に搬入した場合、新刊として出すつもりだったけど肝心の同人誌に不備があって到底頒布できない、ということもあります。

 そうなると、イベント参加費、交通費、印刷代さらには、サークル自体の信用問題にもなりますので、サークルの損失は計り知れません。法律的には、債務不履行ないしは瑕疵担保責任として損害賠償問題となります(なお、民法改正では瑕疵担保責任ではなく契約不適合責任として扱われます)。その上で、印刷所の契約・約款のルールや、入稿データの内容、さらには因果関係や損害論など、かなり複雑な法律問題になります。特に大手サークルさんの場合、想定される賠償額も相当多額になることから、おいそれと引き下がることもできず、訴訟沙汰になることもありえます。争点や事実関係が複雑化し、双方鋭く対立すると、裁判も長期化する可能性もあります。第一審で終結せず控訴・上告もありうるでしょう。 

 いずれにしても、同人作家・印刷所、さらには同人業界全体にとって何ら利益のない不毛な争いです。できればこういった紛争は避けたいところです。同人作家側とすると、できるだけ早期入稿と印刷所と密に連絡をとって、こうした不備のないように努めることです。もちろん、完璧に防止することはできませんが、少なくともイベント直前に入稿するよりかは、かかる紛争リスクを減らす要素にはなるでしょう。
 他方で、印刷所側は、約款(免責事項含む)の整備・見直しをすべきです。すべての印刷所で顧問弁護士のリーガルチェックが入っているかどうかはわかりませんが、弁護士のチェックをいれたほうがよいと思われるものも少なからずありました。また、早期入稿の呼びかけ、注文主である各同人作家さんとのまめな連絡、可能であれば見本誌の配送などの方法が考えられます。とはいっても、印刷所側も費用対効果の問題もありますので、どこまで現実的に可能か、さらにそれをシステム化・合理化できるかといった点も考えなければなりません。

 同人作家・サークル、印刷所双方、もう少し気を付けていれば防げたであろうトラブルも存在しますので、上記の点、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
(2019.03.21)


※1 アドビシステムズが開発した写真・画像加工用ソフト。通称フォトショ。漫画とイラストどちらも作成可能で同人作家さんの間ではよく使われている。
※2 セルシスが開発したイラスト・漫画制作ソフト。通称クリスタ。フォトショ同様、多くの同人作家さんが使っている有名なソフト。


 

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