判例の勉強と個別意見

 最高裁の判決や決定は、主文と理由で構成され、法的な拘束力・強制力があるのは主文です。理由は主文を導くための理由づけにすぎす、当事者との関係で直接拘束力はありません。しかし、理由中の判断でも、最高裁を含めすべての裁判所が事実上これに拘束されるため、実務家(法律家に限らず、不動産業者や金融機関など法律に携わる業種も含む)、受験生は当然理由を含めた判例の動向を理解する必要があります。もっとも、肝心の判例自身が何を言っているのかよくわからない、説明不足というところは多々あります。

 一般的に最高裁判所の意見は、いわゆる法廷意見と個別意見にわかれます。法廷意見は平たくいうと、裁判所の合議体としての意見であり(※)、個別意見は裁判官の個別な意見のことです。さらに、個別意見は「補足意見」「意見」「反対意見」の3種類にわけることができます。「反対意見」は判決主文それ自体に反対する立場で書かれたもので、「補足意見」「意見」は判決主文に賛成・同調する立場です。「補足意見」は法定意見に同調したうえで、法廷意見に補足・追加をするものであり、「意見」は判決主文には同調するものの、法廷意見とは異なる理由付けを示すものです。

 これら、個別意見は極論すると裁判官の独り言なので、法廷意見より軽視される傾向にあります。しかし、法廷意見が何を言っているのかよくわからない、説明不足という場合、あるいは判例の射程や問題の所在を正確に把握するためにも、個別意見を参照することは実務上よくあります。また、司法試験論文試験などでも個別意見などを参考に論述したほうが書きやすい、あるいはそれを意識するよう求められる問題もあることから(たとえば、平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)では「岐阜県青少年保護育成条例事件判決伊藤補足意見に示された判断枠組みを正確に理解した上で解答しているもの」を高く評価しています)、受験生にも個別意見を使った講義をすることがあります。

 読み方が難しい裁判例にあたった場合、裁判官の個別意見はかなり参考になるところがあるので、積極的に活用するようにしましょう。
(2019.03.11)

※ 判決理由(ラテン語:レイシオ・デシデンダイ、ratio decidendi)と傍論(ラテン語:オビタ・ディクタム、obiter dictum)の違いもありますが、ここでは割愛させていただきます。


 

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