インターネットの炎上対策

 ウィステリア・バンデル法律事務所では、インターネットの誹謗中傷・炎上に関するご相談を数多く受けています。同人作家やサークルさんのご相談が多いので「同人誌と法律問題」としていますが、問題の所在自体は同人誌特有のものではありません。当事務所のスタンスは、当サイト「インターネットにおける誹謗中傷・炎上などについて」で述べたとおりですが、実際に被害に遭われた方がどうやって対応するか、一般論的なことを書いてみようかと思います。

 基本的な考えですが、炎上被害者に名誉権やプライバシー権といった人権があるように(憲法第13条、※1)、投稿者にも表現の自由(憲法第21条第1項)という人権があります。名誉毀損との関係で、刑法第230条の2が表現の自由との調整をしていますし、両者が鋭く対立した裁判例も数多く存在します(※2)。法的な削除請求、発信者情報開示請求を経た損害賠償請求や刑事告訴といった手続は、常に互いの対立する憲法上の権利について考えなければならないわけです。
 もっとも、ご相談の多くは、表現の自由としての範疇を超えるものです。それでも法的手段として削除請求等を採ることがはたして妥当かというと、必ずしもそうではありません。このような強権的な手法は、さらなる炎上の原因にもなりかねませんし、そもそも法的手段による削除請求等自体かなり金銭的・手続的負担が大きいものです(くわしくは当サイト「インターネットにおける誹謗中傷・炎上などについて」をご覧ください)。
 その上で、原則として炎上に対して法的手段を採るのではなく、炎上の原因をたどって沈静化を図ることが肝要です。そして、大きく分けて炎上被害者に「落ち度がある場合」と「落ち度がない場合」でわけて考えることができます。

 炎上被害者に落ち度がある場合、原因を究明して謝罪に徹するのが原則です。もっとも、法的な請求権者以外の者による過剰な要求等については、毅然とした態度で対応すればよいでしょう(無関係の外野が騒ぐパターンなど)。また、可能な限り事実関係を明らかにして、適宜情報提供を行うようにしなければなりません。場合によっては、関係者を処分することも必要でしょう(もっとも、過剰に重い処分は許されません)。マスコミ等にも真摯に対応すべきです。そして、炎上の鎮静化のタイミングを見計らって、こちらも通常業務に戻ればよいでしょう。このタイミングもなかなか難しいところであり、引き際を誤ると(一方的に取材等をシャットアウトするなど)さらなる炎上の原因にもなります。
 もちろん、例外もありますが多くはこれで沈静化しています。費用面でも、心理面でも、世間に対する影響という面でも穏当な手法かと思います。

 炎上被害者に落ち度がない場合、つまりまったくの言いがかり・誤解の場合は、毅然とした態度で臨むだけです。下手なことは言わない、しかし嘘はつかない、淡々と炎上被害者の主張を公表すればよいだけです。もちろん、プライバシーや業務秘密など言いたくないことは言わなくてもかまいません。場合によっては、無視・シャットアウトしてもよいくらいです。炎上を誘発する可能性もありますが、中途半端な対応したりするとかえって炎上が長期化する可能性もありますので、原則は毅然とした態度を示すとよいでしょう。
 
 その上で、いずれのケースでも共通していえるのは、「謝罪ポイントを間違えないこと」です。その部分があやふやだと、炎上の原因になります。そして、被害者のスタンスは原則としてぶれないようにしてください。方針変更をする場合は原則として説明が必要です。少なくとも、主張がぶれまくるとさらなる炎上の原因になります。
 
 こうした炎上対策はなかなか難しいところがありますし、対応もケースバイケースです。ここで述べたことはあくまで一般論にすぎません。もし、炎上でお悩みの場合、弁護士に相談してください。
(2019.04.03)

参照条文

日本国憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

刑法(明治四十年法律第四十五号)
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。




※1 一般論として、これらが憲法第13条で保障されていることは、現在の判例通説上異論のないところである。
※2 最高裁昭和61年6月11日大法廷判決民集40巻4号872頁(北方ジャーナル事件)など。




 

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