成人向け(R18)同人誌について

はじめに 

 成人向け同人誌(いわゆるR18、以下、「R18」と表記します)の頒布について、どういうルールになっているか簡潔にまとめてみたいと思います。


R18と法規制について

 R18は同人誌特有のものではなく、商業誌であってもR18は存在します。そして、R18については、都道府県の青少年保護育成条例(以下、単に「〇〇都道府県条例」とします)によって規制の対象となっています。都道府県単位ですので、コミケなど東京ビックサイトであれば東京都の、コミックシティなどインテックス大阪であれば大阪府の条例が対象となります。そのため、まずは参加されるイベント開催地の都道府県を確認してください。

 たとえば、コミケなど東京の場合、図書類等の販売等及び興行の自主規制の規定がありますが、これは努力規定とされています(東京都条例第7条)。また、いわゆるR18と指定された図書類について販売等の制限があり(東京都条例第9条第1項)、所定の区分陳列等の義務が課されています(東京都条例第9条第2項、第3項)。しかし、これは同条例第8条によって個別指定された書籍が対象になるのであって、そうした指定がない書籍等については条例による規制の対象となりません。個別指定の場合、必ず告知や周知があるので(東京都条例第8条第2項、第3項)、個別指定の告知等がない同人誌は個別指定がないという扱いになるわけです。

 他方で、大阪の場合包括指定が存在します(大阪府条例第13条第2項)。包括指定は個別指定(大阪府条例第13条第1項)と異なり、条文上の要件に当たる場合、告知等がなくても条例による規制の対象となるわけです(大阪府条例第14条第1項、第15条第1項など)。違反すると、大阪府知事より勧告(大阪府条例第15条第2項)、措置命令(大阪府条例第15条第5項)、罰則規定も存在します(大阪府条例第56条第1号、第2号)。なお、勧告等や罰則については、東京都であっても同様です(東京都条例第9条の3、第18条第1項、第25条)。

 このように、開催される都道府県で条例規制の態様が異なりますので、ぜひ一度確認しておいてください。

図書類販売業者等について

 東京都条例だと「図書類販売業者等」(東京都条例第9条第1項)、大阪府条例だと「図書類取扱業者」(大阪府条例第14条第1項)による頒布等が規制の対象となっています(それ以外は努力義務)。ここでいう「図書類販売業者等」とは、「図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者」をいい、「図書類取扱業者」とは、「図書類の販売、貸付け又は閲覧し、若しくは視聴させることを業とする者」をいいますが、サークル参加者がこれらにあたるのでしょうか。
 多くのサークルは同人誌を有償頒布していますので、「販売」にあたりますが、「業とする者」といえるかどうかが問題となります。

 一般論として「業とする者」にあたるかどうかは、反復継続性や事業性などを要素として検討します。コミケは年に2回ですし、コミックシティなどとあわせても、参加できてせいぜい年10回くらいではないでしょうか(もちろん、全国津々浦々、毎週のようにどこかのイベントに参加している強者もいるようですが)。また、趣味で執筆・頒布している同人作家さんが多く、印刷費や参加費で赤字になるサークルも少なくありません。そうなると、そのイベントのみで収入の大半を占めるといった大手壁サークルや、専業の同人作家でもない限りは、反復継続性や事業性がないという解釈もありえるところでしょう。もっとも、委託販売や通販などを行えば、反復継続性を認める要素になりえます。
 これについて、裁判例等は見当たりませんでしたが、イベント参加の回数、頒布数、売上額、委託販売や通販の利用等、総合的に個別具体的な事案に応じて判断されるのではないでしょうか。

R18とわいせつ物頒布罪について

 R18規制の対象となるのは条例以外にも、わいせつ物頒布罪の問題もあります。特に、以下のような問題があります。
・わいせつ物頒布罪は、頒布相手の年齢を問わないため、たとえ年齢確認をしても、わいせつ物頒布罪は成立します。
・わいせつ物頒布罪は、権利者の権利行使という概念が存在しないため、第三者等による通報や警察の自発的な摘発が可能です(著作権は原則として権利者のみが権利行使可能。これは条例による規制も同様)。

条文と「わいせつ」の意義

 まずは、条文を確認しましょう。

刑法(明治四十年法律第四十五号)
(わいせつ物頒布等)
第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

 その上で、刑法第175条にいう「わいせつ」の意義について、以下の2つの重要判例があります。

〇 最高裁昭和26年5月10日判決刑集5巻6号1026頁
 「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とする(※1)。

〇 最高裁昭和55年11月28日判決刑集第34巻6号433頁 
 文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の社会通念に照らして、それが「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきである。

 これらを読んだだけではなかなかピンとこないかもしれませんが、R18の同人誌も全体として「読者の好色的興味にうつたえるものと認められる」ものも存在し、読み手の「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ」、かつ「普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえれば、「わいせつ」文書にあたる場合もあると考えます。それでも、なかなか判断がつきにくいところがあり、だからこそ書(描)き手を悩ませる要素でもあります(憲法で保障された表現の自由との関係で問題があるとは思います)。
 その上で、「わいせつ」該当性につき、以下の点にご注意ください。

・静止画(絵)だけでなく、動画、文字、音声も「わいせつ」にあたることがあります。
・男性向け、女性向け関係ありません。
・異性間のみならず、BL、GL、異種間、触手、スライムなども 「わいせつ」に対象となりえます。擬人化をしていなくても、「わいせつ」にあたることもあります。
・性行為の有無は要素になりえますが、性行為にあたらないからといって、直ちに「わいせつ」性が否定されるわけではありません。
・絵や文章の上手下手は関係ありません。
・R18表記その他、ゾーニングについては、直接「わいせつ」性に関係ありません(※2)。
・生モノ、半生も対象となります。
・一次創作、二次創作関係ありません。
・性器露出(ふたなり、やおい穴等を含みます)の有無、修正の程度は「わいせつ」性判断の要素となりえますが、性器露出がないからといって、直ちに「わいせつ」性が否定されるわけではありません(※3)。上半身全裸の男性キャラ、スク水なども、場合によっては「わいせつ」にあたります。
・たとえ1ページの一部分であっても、「わいせつ」にあたることがあります。
・印刷所の入稿時のチェックや、イベント主催者の見本誌チェック等をクリアしても、直ちに「わいせつ」性は否定されません(※4)。

対象となる文書等とは

 「文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」なので、同人誌本体はもちろん、サークルペーパー、ポストカード、ポスター、POP など紙媒体だけではなく、USBメモリやCD-Rなど紙媒体、記録媒体問わずあらゆるものが含まれます。グッズやノベルティも対象になります。

頒布等とは

 「頒布」とは、有償・無償を問わず、不特定または多数の人に交付することをいいます。したがって、いわゆる無料配布、サークルペーパーの配布もこれにあたります。前述したように、頒布相手の年齢問わないため、サークル主や売り子が年齢確認しても「頒布」にあたります。なお、同人即売会による頒布は、一般的には「不特定または多数の人」への交付にあたります。
 「公然と陳列」とは、不特定または多数の人が認識できる状態に置くことをいいます。したがって、イベント開催中にPOP等で掲示することや、スペース机上にわいせつ同人誌やサークルペーパー等を陳列する行為も含まれます。不特定または多数の人が見ることできる状況にあればよいので、スペースに売り子が誰もいなくても「公然と陳列」にあたります。なお、一般入場前の準備段階でも、不特定または多数のサークル参加者等が見ることができるのであれば、「公然と陳列」にあたります。
 「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した」は、サンプル画像等をPixivやTwitterなどにアップすることや、デジタルデータとしてダウンロード頒布することです。鍵垢、限定公開であっても、直ちにこれを否定する要素にはなりません。
 「有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管」とは、たとえば同人誌を頒布前の入稿データなどをさします。「有償で頒布する目的」なので、無料配布やサークルペーパーなどは含まれませんが、有償頒布の同人誌については、入稿前であっても処罰される可能性があります。

わいせつ物頒布罪と規制の実態について

 同人誌のわいせつといえば、R18や年齢確認、ゾーニングを意識されるサークルは多いかと思います。しかし、冒頭で述べたように、わいせつ物頒布罪は年齢を問わないことから、「18歳以上の人に頒布するのであれば、何を書(描)いてもよい」ということにはなりません。特に、印刷所等のチェックが入らないもの(コピー本など)については要注意です。前述したように、印刷所や主催者のチェックをクリアしたからといって、直ちにわいせつ性は否定されませんが、印刷所や主催者も判例等を意識してわいせつ性をもとに判断していると思われるため、チェックを経ない場合によりはわいせつ性が認められにくいと考えます。
 おそらく、多くの作家さんがコミケの入稿前で大忙しかと思いますが、わいせつ物頒布罪について少しでも意識されればと思います。
(2019.11.03)
※「2019.12.08 成人向け(R18)同人誌について その2」は本ページと統合しました。



※1 最高裁昭和32年3月13日大法廷判決刑集11巻3号997頁(チャタレイ夫人事件)、最高裁平成26年10月7日判決裁判集刑315号1頁なども参照。
※2 なお、東京高裁平成17年6月16日判決(松文館事件控訴審判決。最高裁平成19年6月4日決定で上告棄却)参照。
※3 前掲松文館事件参照。
※4 なお、東京高裁昭和44年9月17日判決判例時報571号19頁、判例タイムズ240号115頁(黒い雪事件)参照。


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